平成29年2月15日 参議院 資源エネルギーに関する調査会
議事録 (抜粋)
(全文はこちら: http://kokkai.ndl.go.jp/
○青山繁晴君
まず、福島原子力災害を考えるときに、どんな種類の放射性物質がどれほど環境に出てしまったかを計算することは、言わば根っこの根っこであります。ところが、この計算を原子力規制委員会としてはいまだに行っていないという、意外に知られていない事実があります。
事故の直後でありました二〇一一年の四月、菅内閣の当時に、経済産業省の原子力安全・保安院がヨウ素131とセシウム137を合わせて全体をヨウ素に換算いたしまして三十七万テラベクレル、そして内閣の原子力安全委員会が六十三万テラベクレルという、いずれも膨大な数値を公表いたしました。そして、翌年の二〇一二年の三月に、原子力安全・保安院は、およそ五十万テラベクレルという、言わば数字を上乗せした値を公表しました。日本政府が発表した数字はこれが全てです。
原子力安全・保安院も原子力安全委員会もその後廃止されまして、二〇一二年九月に野田内閣の下でこの原子力規制委員会が発足しました。しかし、放射性物質の計算は、国連の科学委員会とIAEA、国際原子力機関ではその後なされましたけれども、現在の政府機関である原子力規制委員会によってはいまだなされてはおりません。
そして、原子力安全・保安院と原子力安全委員会という二つの旧機関、今はない機関による数字が、IAEA、国際原子力機関の基準に照らして、あのチェルノブイリ事故と同じレベル7とする根拠になっております。
ところが、これは国民が普通にイメージなさるような実測値ではありません。コンピューターシミュレーションによる推測値です。コンピューターシミュレーションによる推測値というのは、値や条件の入れ方によっては手計算と違ってどんどん大きくなりかねないという、科学に携わる者であればどなたでも御存じの特徴があります。
事実、学者の中には、一部ですけれども批判もあります。例えば、事前に御当人に申し上げておりませんけれども、東京大学名誉教授の西村肇先生、この方は大気と海洋の汚染研究の大家として知られて、官公庁始め公の依頼によって環境調査を長年遂行されている方です。私はこの方とお会いしたことはありません。連絡も取っていません。何を言っているかというと、利害関係などもありません。この西村名誉教授が二〇一一年四月八日、だから事故の直後に記者会見を行われまして、福島原子力災害による放射性物質の漏えいは千テラベクレル程度という計算を明らかにされています。これを先ほどの保安院の数字と比べますと僅か〇・二%、安全委員会の発表の僅か〇・一六%です。つまり、いずれも政府発表の一%にも満たない放射線量を計算なさっています。これと似た計算の学者はほかにもいらっしゃいます。今日は紹介しませんけれども。
一番中立的な立場と思われる西村先生の発表を引用しましたけれども、余りに数字が違い過ぎないでしょうか。これらの計算をチェルノブイリの事故と比べると、政府発表では福島原子力災害はおよそ放射性物質の漏えいが十分の一程度、学者の計算では千分の一ほどになってしまいます。同じ事故の話とは思えません。
したがって、まず原子力規制委員会にお伺いしたいのは、原子力規制委員会の基本的な任務として、改めて放射線量について計算なさり、国民に公表すべきではないでしょうか。放射性物質の漏えいのもとである格納容器などはまだデータを取れる状況ではないことはよく理解しております。しかし、土壌であったり河川であったり海洋であったり、データはかなり取れるんではないでしょうか。
まず、この件について規制委員会にお伺いします。
○政府参考人(山形浩史君) お答えさせていただきます。
先生のおっしゃられたとおり、平成二十三年四月に実施しておりますけれども、福島第一原子力発電所の事故に関するINESの評価に関しまして、当時の原子力安全・保安院と原子力安全委員会、これらが放射性物質の放出量をそれぞれ、おっしゃるとおり、ヨウ素換算で三十七万テラベクレル、六十三万テラベクレル、そしてレベル7と評価しております。
また、平成二十三年九月に公表しました政府のIAEAへの報告書におきまして、放射性物質の放出量は、環境モニタリング、出されたものの環境モニタリングのデータの逆推計の結果も踏まえまして、大気中について、同じくヨウ素換算で五十万から百万テラベクレルと推定しております。
これらの放射性物質の放出量につきましては、国際機関においても評価がなされております。例えば、二〇一五年のIAEA事務局長報告書によれば、それらの値は三十八万から百二十万テラベクレルというものでございまして、日本政府の報告書における試算と大きく異なるものではございません。これらの放出量、先生御指摘がありましたように、セシウム137の放出量をヨウ素換算するために四十倍してヨウ素131と合算した推定値でございます。
御承知のとおり、現在、福島第一原子力発電所につきましては、高線量であるために詳細な現地調査、これ非常に難しい状況でございます。格納容器の損傷状況、依然として不明な部分がございますので、規制委員会としては、引き続き調査を必要としていると思ってございます。
原子力規制委員会としては、現在の廃炉の進捗状況を踏まえて、着実に事故の分析を進めることとしております。今後、新たな知見が得られましたら、放射性物質の放出量を見直すことができるかどうか、検討してまいりたいと思っております。
○青山繁晴君 今最後に、場合によっては検討するとおっしゃいましたから、是非前向きにお考えいただきたいと思います。
なお、念のためですけれども、今おっしゃった国際機関の計算というのも、基本的には日本の出した値あるいはデータの取り方を参照にしているわけですから、改めて、私たちの政府機関の中で一番大事な原子力規制委員会が本来の機能として取り組まれることをもう一度お願いしておきます。
次のテーマなんですけれども、この放射線量の探求というものが、本来はレベル7の見直しについて原子力規制委員会はIAEAと協議していただきたい、あるいは協議すべきではないかと考えます。
そこで一つ、本来、質問なんですけれども、提案がありまして、現在のIAEAの基準では、レベル6以上になると単に数値だけで、放射性物質の漏えいの数値だけで判断することになっていますけれども、しかし、本来は事故の総合評価、すなわち放射線障害による犠牲者の有無から始まって、環境破壊の度合いなどを含めて評価をすべきではないかとIAEAに問題提起をなさってはいかがでしょうか。田中委員長がおっしゃいましたとおり、福島原子力災害という言わば無残な、同時に、決してほかでは得られないことがベースになっていますから、そのような問題提起を一つ提案します。
どうしてかといいますと、現在、レベル7で同等とされているチェルノブイリと福島は、福島県民のためにも申したいんですけれども、事故の中身が違い過ぎます。チェルノブイリでは、御承知のとおり、プルトニウムを始め重金属が広く環境に漏えいして死者がたくさん出た事実があります。
福島原子力災害でも、事故によって命を奪われ、生活を奪われ、父祖の地を汚された無残な事実があります。これは本当に許すことができません。ただ、犠牲者については、災害関連死、すなわち誤った避難誘導が政府の手を含めてなされてしまったためであって、放射線障害では死者がいないだけではなく、実は放射線障害では治療を受けた方もいらっしゃいません。
例えば、子供たち、四十歳未満の若い方々、子供を含めて、本来は放射性ヨウ素が出ましたからヨウ素剤を投与して甲状腺にたまるのを阻止するはずですけれども、その当時のこれは適切な判断だったと僕は思いますけれども、ヨウ素剤というのは本来副作用少ないですけれども、それでもあの線量であればヨウ素剤を特に子供に与えた方が害が大きいんじゃないかということで、結局ヨウ素剤も投与しておりません。
したがって、人的な被害、先ほど委員長も人と環境を守るためということを明言なさいましたが、人の被害でいえば、さっき言いました災害関連死もきちんと考えなきゃいけませんけれども、チェルノブイリと同じような事故が起きたというのは、原子力発電への賛否も超えて、客観的に余りに不可思議ではないでしょうか。そして、あくまで客観評価が不可欠だからこそ、事故の総合的な評価方法の導入というものをIAEAに提起されてはいかがでしょうか。
原子力規制委員会の見解をできればお伺いしたいと思います。
○政府参考人(山形浩史君) お答えいたします。
まず、IAEAのレベル7がどのようなことで判断されるか御説明させていただきたいと思います。
まず一つには、放出された放射性物質の量というのがございまして、ヨウ素換算にして数万テラベクレルを超えるものというものがございます。
それと、詳しくなりますけれども、長期的な環境への影響の可能性が高く、また公衆に対する健康上の影響、また制限するための防護措置が必要とされているような場合というふうになっております。
今回の福島第一原子力発電所に関して言いましても、広域の避難を実施したことや長期的な環境への影響は発生しているということから、このレベル7の評価ということになっております。
この数量も含めて、また環境への影響、避難がなされたかどうか、そういうことも、このIAEAの考え方というものは現在妥当であると思っております。
○青山繁晴君 今のところをもう少し踏み込みたいところですけれども、時間がありませんので、次のテーマに移りたいと思います。
次は、いわゆる汚染水の問題です。
先ほど申しました事故直後だけではなくて、私は、二〇一五年の一月に、本来は原子力の専門家であります現在の戸谷文科省事務次官と二人で福島第一原発の構内を再訪して、言わば実地に検分いたしました。もちろん非公式な検分であります。
構内は、だから、おととしの一月の段階で既に汚染水のタンクでいっぱいでありました。実際は、そのタンク、外からは分かりませんけれども、まずALPS処理水、すなわち多核種除去設備、多核種という言葉は難しいですけど、多い核の種類ですね、いろんな放射性物質を除去できる設備、その英文の頭文字を取りましてALPSと普通呼んでおりますけれども、このALPSによる処理が終わってトリチウム、三重水素などの残存放射性物質だけになっている水がお聞きしたところでは現在大体七十二万トン、それ以外に、放射性物質が残ってしまっている元の汚染水がおよそ二十万トン、後者もいずれALPS処理水になる予定と聞いています。
このALPS処理水、ALPS処理水というのは実は福島のためにできてしまった新語ですけれども、これと実は全く同じ排水が三・一一が起きる前は国内の全ての原子力発電所から海に放出されておりましたし、それから現在世界でも放出されています。トリチウムの人体への影響については学者の中でも諸説ありますけれども、しかし、それにしても、福島原子力災害が起きると同じ排水を海に出せなくなるというのは、少なくとも国民の間にフェアな議論を起こす努力がやっぱり政府側に足りないんじゃないでしょうか。
まず、この質問に関連して、日本国内でも世界でも現在のALPS処理水と同じものが海に出されていた、その事実関係は間違いないでしょうか。それは原子力規制委員会、お願いできますか。
○政府参考人(山形浩史君) お答えさせていただきます。
ALPS処理水と言われておりますものは、ほとんどの放射性物質を取り除いておりますが、トリチウムだけが残っております。そのトリチウムにつきましては、福島第一原子力発電所事故の前は、今もですけれども、原子力発電所からこれは規制にのっとった形で放出されております。また、海外におきましても、各国の規制基準に照らして放出がなされているというふうに承知しております。
○青山繁晴君 それで、今のテーマの問いに戻るんですけれども、田中委員長は既に海に排出すべきだというお考えを明言されています。少なくとも私はそう受け止めています。
したがって、原子力規制委員会としてはやるべきことはやっているんだというお話かもしれませんけれども、しかし、現に汚染水というものが漁家の方々だけではなくて、漁家の方々が一番不安に思われるのは、むしろ、現地を歩いて漁家の方々と話しても、国民全体の不安がちっとも解消されていなくて、そのために例えば福島の魚についても依然として風評被害がある、貝についてももちろんあると、そういうことが最大の問題ですから、これは原子力規制委員会及び経済産業省に、より国民にフェアな議論を巻き起こす努力、マスメディアの問題も大変多いです。僕は共同通信の出身でもありますから、マスメディアというものの困った点もよく承知しておりますけれども、しかし、誰かのせいにしていれば、いつまでもあのタンクがたまっていって、そして、この後もう一回質問しますけれども、そのタンクに人とお金が使われていて、本来使われるべきところに使われていないという問題も実は起きていると考えていますから、もう一度申します。
汚染水の実態についてフェアな議論ができるような環境をつくっていただけないでしょうか。規制委員会と経済産業省にお聞きしたいと思います。
○政府参考人(山形浩史君) お答えいたします。
福島第一原子力発電所汚染水に含まれるトリチウムについて、これは技術的に除去することは極めて困難であることですから、先ほど申し上げましたように、国際的にも排出基準濃度以下に希釈されて海洋放出がなされております。また、元NRCの、米国原子力規制委員会のマクファーレン元委員長、バーンズ前委員長、また原子力規制委員会のイギリス、フランスの国際アドバイザーの方も、福島第一原子力発電所のトリチウムの水は海洋放出すべきと発言されているというふうに承知しております。
一般の原子力施設においては、従来より放射性液体廃棄物の処理に当たっては、審査、検査を経て、規制基準を下回ることはもちろんのこと、できる限り低くして環境への放出が計画的になされております。規制委員会としては、浄化された汚染水の規制基準を満足する形での放出であれば環境への影響は考えにくいと認識しております。このようなことにつきましては、広く伝わるようにしてまいりたいと思っております。
○青山繁晴君 幸いあと三分間残っていますので短い質問を最後にいたしたいんですけれども、これも通告はいたしております。
先ほどお話ししましたとおり、福島の悲劇は放射線障害によって起きたのではなくて、誤った避難誘導によって失われるべきじゃなかった命がたくさん失われました。そうすると、当然原子力規制委員会として、もう既にこの避難誘導の在り方、それから実は、これも忘れられていますけど、平成十六年に国民保護法が施行されて、これはテロに対しての避難誘導ですけれども、国民保護法が平成十六年に初めて施行されたということは、健康保険とか年金とかの国民保護はあっても、非常時に国民をどうやって保護して正しく避難誘導するかという概念そのものが実は乏しかったということです。
それも全部含めて、今後、福島で起きたような、例えば単純に同心円で見てしまって、同心円で二十キロ圏内だから、例えば腎臓の透析を受けていた高齢者の方を無理無理避難させて、そこでたくさん悲劇が起きた。そういうことが起きないために、原子力規制委員会として今どういう改善策に取り組まれていて、最終的な仕上げはどこを目指していかれるのか。
済みません、これも委員長、よろしいですか。
○政府特別補佐人(田中俊一君) 今御質問のことですが、よく新しい新規制基準の意味について問われることがありますが、この原点は福島の反省にあります。
これは、今先生おっしゃったように、放射線障害による急性症状とか、そういうことはサイト内外を含めて今検出されていないというか、ところが一方では、これは以前にも予算委員会で申し上げましたけれども、その避難、無理な避難をすることによって、もう既に、いろんな累計がありますけど、二千人近い方が亡くなっているという、この六年間で、そういうことがあります。
そういうことがないように、規制基準では、簡単に言いますと、セシウムで百テラベクレル程度を最大として、実際にはその十分の一か二十分の一ぐらいになっています、今。そうであれば、そうすることによって、無理な避難をしなくてもいいと。ですから、取りあえず、いろんな経験を踏まえて、五キロ圏については、PAZと言っていますが、予備的に避難の準備をして、放射能が出る前にそういう対応、アクションを取っておると。それから、五キロより遠くの場合には、いわゆるきちっとした建物の中にとどまっていただきたいということで、そういう指針を作らせていただいています。
ですから、先生がおっしゃるように、無理な避難というのがいかにいろんな生命とかいろんなことに被害をもたらすかということを物すごく身にしみております。ですから、そういうことをしないための規制であるということが我々の原点ですので、是非それについては御理解いただきたいと思います。
で、避難ができるかできないかとか、そういうことだけがどうしても議論が先に行くんですが、そういうことではなくて、私どもは避難はそんな急いでする必要がないというレベルまでそのリスクを抑え込んでいるということで御理解いただければと思います。