日本環境変異原学会

放射線リスクWG作成

 

 

放射線のリスクを正しく理解するために役立つ報文

 ここでは、放射線のリスクを正しく理解するために役立つ学術論文や報告書を、要約を添えて紹介します。研究者の方は、ぜひ原著論文をお読みください。

英文

  • Radiocontamination patterns and possible health consequences of the accident at the Chernobyl nuclear power station L A Ilyin et al L.A. Ilyin et al J. Radiol. Prot. 10 3-29 (1990) 
     チェルノブイリ原発事故による放射能汚染の状況と住民への健康被害について、ロシアの医科学アカデミーの研究者がまとめたもの。初期の脅威は主に放射性ヨウ素によるもので、7歳以下の子供たちに顕著であったが、半減期が短いためすぐに減少し、それ以外の人々にとっては、半減期の長い放射性セシウムによる暴露が危惧となった。
     これらの放射性物質の量を地域ごとに算出し、将来のがん死の増加の推定をしているが、生涯線量350ミリシーベルト以上の地区の住民を疎開させ、他の放射線防護規制を完全に実施した際には70人がん死を減らせると推定されている。
     この数字は、自然に起きるがん死の、0.2%にすぎない。しかも、これは放射線の作用に閾値がないと仮定した値である。
     放射線によりもっとも感受性が高いとされる胎児への影響についても、自然に起きる障害の範囲に収まるとしている。甲状腺疾患については増加が予想されるが、甲状腺がんを含め、白血病や他のタイプのがんや遺伝病の増加は明らかではない。
     そして、生涯線量が350ミリシーベルトを超えなければ、心配する必要はないと結論付けている。(TS)
     

    和文

  • 低線量放射線の健康影響に関する調査 (核融合科学研究会 委託研究報告書) 近藤宗平、米澤司郎、斉藤眞弘、辻本 忠 (2003)
     安全安心科学アカデミーのサイトにて閲覧可能。近藤宗平先生を中心としてまとめられた委託研究報告書であるが、動物実験データ、チェルノブイリ事故、原爆による被爆、自然界の放射線量などのデータから、低線量放射線の健康影響を評価している。
     「放射線はどんなに徴量でも人体に危険」ということが誤解であることが、科学的データにもとづいて説明されている。また、逆に微量の放射線はむしろ健康に良いとするホルミシス効果ついても述べられている。
    注目すべきは、「原爆の残留放射能(放射性降下物)による急性死亡は報告されていない」という記述である。原爆でもチェルノブイリでも、放射線による死亡例はすべて直接高用量の放射線を浴びた例であり、低用量放射線の直接的なリスクは低い。
     遺伝的な影響も懸念されるところであるが、故 J.V.Neel 教授の指導のもと40年間かけて行われた広島・長崎の原爆被ばく二世の遺伝的影響の調査は、6項目の遣伝的指標の頻度すべてについて、被ばく二世(両親の被ばく量の平均値は約400ミリシーベルト)と対照二世の問で有意の差は認められなかった。このことは、400ミリシーベルトの放射線を浴びても、遣伝的リスクは検出できなかったことを意味する。
    われわれが浴びる自然放射線の量は世界平均で1年間に約1ミリシーベルトであり、この程度は当然無害である。しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)の基準値は1ミリシーベルである。
     以下はこの報告書の序章よりの引用である。
    「現在の放射線防護規則の履行により、生命を救うという名目で出費されている金額は、ばかげているほど高額であり、非倫理的出費である。このことは、はしかやジフテリア、百日咳などにたいする予防注射によって生命を救うのにかかる安い費用と比較するとよく分かる。放射線から人間を仮想的に防護するため巨額の費用が使われている。他方、本当に生命を救うためのずっと小額の財源はたいへん不足している。」(TS)